超伝導リールシートの比較検証

振動特性の対比に関する報告

は じ め に

ルアーフィッシングにおいてのロッドは、魚の当たりを感じ取る最も重要な部分である。現在、ルアーロッドメーカーは日本だけでも20社以上はあり、各社ともに高弾性(高反発性)シャフト素材を売りにして『アタリが良く感じ取れるロッド』として売り出していますが、現在流通するルアーロッドの多くはブランクシャフト素材のみに注目し、グリップ部分にあたるリールシート部はあまり重要視されていないのが現状と言えます。VAGABONDではこの重要なリールシート部をジュラルミン製で自社開発した事により、従来OEMメーカーに頼っていたグリップ構成部品を自社製に変えたと同時に、ロッドとリールシートの関係を根本から変える構造とした事で、ロッドの性能をブランク以外のリールシート部で格段に引き上げるシステムを開発しました。さらにロッドの振動特性を周波数レベルで解析する事によって、ロッドブランクから伝えられる振動情報がどのように手元で変化し、実際にアングラーの手元で伝わるのかを検証する事で、より深くロッドの特性や使用方法を理解する事が出来ます。VAGABONDで創るアクションロッドを数値的に検証する為に振動の比較計測を、京都市産業技術研究所工業技術センター 電子応用研究室において行いました。

振動周波数の計測 と 振動周波数成分の比較・解析

今回の実証実験の主旨

そもそも「振動」とは『波(波動)』である。物質のある点での振動がそれに隣接する部分の運動を引き起こし、その運動エネルギーが次々に伝えられてゆく現象である。振動現象は、振動波形と周波数によって数値化される。

実際に当たりを感じた瞬間の振動を検証出来ないのなら、出来るだけ同じ条件下で他社製品とアクションロッドの振動波形を計測し、そのデータを比較・解析する事でアクションロッドの特性を数値レベルで検証する事ができます。さらに、この特性を数値化する事は、従来良く使われていたあいまいな性能表現では無く、より明確な性能分析や表現をする事が可能にもなると考えます。例えば、性能(振動伝達率)130%増加や、周波数ピーク○○KHZなど数値の基本を作り出す事も可能となります。このように性能を数値化する事で基準となるデータを作る事ができ、今後よりハイレベルな高性能ロッドを追求する事が可能となります。

振動特性の対比に関する報告

 

■設定条件

他社製品とアクションロッドの振動特性を対比・実証するにあたり、同一環境での正確な振動周波数を把握する事が不可欠である。正確な数値を検証する為、同じAブランクシャフトを使用。 わずかな振動をキャッチ出来る高感度センサーを使用する為、2本のロッド同時に同じ振動を与えると互いに干渉してしまい、互いの干渉を防ぐ為、双方別々のバイスを机に固定し、バイスによって支えられる凹木型にグリップエンドのみを固定し、ロッドを宙に浮かした状態で、それぞれ別々に計測。
1: Aブランク+当社グリップ製搭載ロッド
2: Aブランク+他社グリップ製搭載ロッド

■計測方法

 ラインの先におもりを付け、竿先を弾き振動を与え、FFTアナライザーに接続されたチャンネル1加速度センサー(以下、ch1センサー)をグリップヘッドに、チャンネル2加速度センサー(以下、ch2センサー)をグリップ握り部に固定し、データを計測。 1回の入力では入力数値に微妙な誤差が生じる為、同レベルの入力を10回行い、その平均値を取る事によりデータとしての均一性を出す事とする。 それぞれ平均化されたデータ値を元に、解析を行なう

■計測方法

 ラインの先におもりを付け、竿先を弾き振動を与え、FFTアナライザーに接続されたチャンネル1加速度センサー(以下、ch1センサー)をグリップヘッドに、チャンネル2加速度センサー(以下、ch2センサー)をグリップ握り部に固定し、データを計測。 1回の入力では入力数値に微妙な誤差が生じる為、同レベルの入力を10回行い、その平均値を取る事によりデータとしての均一性を出す事とする。 それぞれ平均化されたデータ値を元に、解析を行なう

■実験内容


振動波形の計測とその周波数成分の比較・解析を行う。
1. 『振動波形データ計測と比較・解析』
   
受けた振動そのものの波形を計測し、比較・解析を行う。
   1) CH1とCH2で計測した振動周波数のグラフがどのように
     変化(伝達)しているか、それぞれ検証する。
   2) CH1とCH2で計測した振動周波数のグラフを重ねて見る事で
     それぞれの振動伝達特性を比較する。

2. 『周波数スペクトル分析による比較・解析』
   振動波形に含まれる周波数成分の比較・解析を行う。
   1) CH1とCH2で計測した振動の周波数スペクトルからそれぞれの周波数特性を検証する。
   2) 振動伝達比グラフで、振動伝達比の比較・解析を行う。

以上、2つの項目をそれぞれのグラフで検証する。

振動特性の対比に関する報告 アクションロッドの特徴と従来品との違い

実証実験の結果報告をする前に、この実験に使用した 当社「Action Rod」と他社製品の構造の違いについて説明します。

高感度を追求するアクションロッドではまず感度を最大限に高める為、ブランクシャフトに金属製スリーブを取り付け、そのスリーブをリールシート先端部に填め込む事により、ロッドとグリップを金属同士で隙間無く固定しています。金属スリーブによりリールシートと一点支持され完全に固定されるアクションロッドは、リールシート内でブランクシャフトを拘束させず浮遊させる事が可能となり、シャフトから伝わる振動がリールシートで吸収されず、コルク(又はWOOD)グリップ握り部分に伝わりダンプされ、振動が手元で共振する仕組みとなっています。

このアクションロッドのシステム(米国PAT NO: US 6510645B2/日本PAT・P: 2002-17208)を採用する事により、上記の図のように、従来のロッドではリールシートはリールを取り付ける為のものでしたが、アクションロッドは支持ポイントを先端部に限定させ支点とする事により、支点の前後を振り子のように振動させるという考え方で、リールシート構造そのものが振動を増幅させる為に開発されています。簡単に言うと弦楽器の音が響くように、手元で魚から伝わる振動を共振増幅させるシステムグリップとなります。これらの構造は全てジュラルミン製もしくは支持ポイントを限定したグリップのみで成し得るシステムであり、これら全てのシステム構造が特許として認められています。これは言わば、今までのロッド概念を大きく変えてしまうもので、ロッドに付けられるリールシートによってロッド全体の機能が大幅に向上する事になります。

■意匠登録:登録第1131754号

振動特性の対比に関する報告

1/振動波形データ計測と比較・解析 受けた振動そのものの波形を計測し、比較・解析を行う。

この実験で計測される実時間波形データは、振動を与える瞬間を「当たりを感じた瞬間」として想定し、当たりの振動がグリップヘッド(CH1)からグリップ握り部分(CH2)へ時間の変化と共にどのように変化していくのかというデータを計測する。計測した振動は実時間波形グラフに表され、このグラフを元に比較・解析を行う。

『振動実時間波形グラフ』

時間tの関数である信号は、縦軸⇒振幅(加速度)、横軸⇒時間といったグラフで描くことができます。

振動の実質的な実波形データで、時間の経過とともに振動どのように変化しているのかを表します。

1) CH1で計測した振動がCH2でどのように変化しているかをそれぞれ検証する

当社グリップ製搭載ロッド

▲CH2(手元)では振動が増加している部分が多い。

他社グリップ製搭載ロッド

▲CH2(手元)では振動が減衰してしまっている。

2) CH1とCH2で計測した振動波形のグラフを重ねてみる事で、それぞれの振動特性を比較する

当社グリップ製搭載ロッド

▲CH1とCH2の波形の重なりを見るとCH1(ロッド先)よりもCH2(手元)が大きくなっている部分が多い事が解る
▲つまり増幅している

他社グリップ製搭載ロッド

▲CH1とCH2の波形の重なりを見ると、CH1(ロッド先)よりもCH2(手元)が小さくなっている事が解る
つまり増幅していない

■結 果

当社製グリップ搭載ロッドと他社製とを比べてみると、当社製ではCH2の実波形が増幅されている事がはっきりと解り、他社製ではCH2の波形はCH1よりも減衰している事が解る。通常ロッド先端から伝わる振動は、CH1からCH2へと伝達される際にリールシートやリール等質量の大きな物質の抵抗力によって減衰してしまうが、当社製グリップ搭載のロッドでは増幅されている。これは共振現象と思われ、当社ロッドのブランク拘束支持方法やグリップ材質の違いによる構造上の違いから、共振のような現象が起こっている事が解る。先端から与えられた振動はブランクを伝わりCH1からCH2へと伝達される。受けた振動はブランクとリールシート双方を伝わりCH2ではリールシートから伝わる振動とブランクから伝わる振動が相互に影響し合いながらCH2では振動が増幅されている結果となった。

「振動基礎知識」

リールシート部材の質量が小さくなったり、硬性が高くなると共振する周波数は高くなる。ジュラルミン製のグリップと樹脂製のグリップでは、その硬性の違いからそれぞれの持つ固有振動周波数は異なり、硬性の高い当社製グリップは、高い固有振動周波数を持つ事になる。また、共振とはこの場合、ジュラルミンリールシートが持つ固有振動数と外部から与えられた振動周波数が共鳴し発生する振動の事で、同じ周波数を持つ振動運動が重なる事によって振動が増幅する。固有振動周波数の高い当社グリップでは共振周波数が高くなり、樹脂製グリップでは低くなる。

  2/振動波形データ計測と比較・解析周波数スペクトル分析による比較・解析 振動波形に含まれる周波数成分の比較・解析を行う。

この実験では、周波数のスペクトル(周波数成分)を計測する事で、周波数特性を調べることができる。最も振動の波が大きくなる周波数成分を分析する事ができ、この振動のピーク周波数を調べる事により、グリップ部(CH1)からグリップ握り部(CH2)へ振動が伝わる際に、ブランクの拘束方法の違いによってどの周波数が高く、どの周波数が低いのかという事を含め、減衰している部分や、共振している部分が解る。

1) CH1とCH2で計測した振動の周波数スペクトルからそれぞれの周波数特性を検証する。
2) 振動伝達比グラフで振動伝達比の比較・解析を行う。

『周波数スペクトルって?』

種々の物理量を観測して得られた信号は、時間tの関数としてx(t)、y(t)などと表現できるのですが、信号の性質を理解する上では、信号にどのような周波数の成分が含まれているかを知ることが重要になります。信号を各周波数ごとにその成分の振幅と位相を与えて表現すること、すなわち横軸を周波数とし、その周波数成分の大きさを縦軸として描いたものが、周波数スペクトルです。

1) CH1とCH2で計測した振動の周波数スペクトルからそれぞれの周波数特性を検証する

当社グリップ製搭載ロッド

全体的にCH1及びCH2には同じ波形の周波数成分が含まれている事が解り、振動のピーク周波数が同じである事が解る。特に1.4khz以上の高い周波数帯域では、全体的に振動の大きさとして高いレベルで維持されており、CH1よりもCH2が上回っている部分が多い。CH1&2のレベル的な変化を細かく見ると、0.6~0.9khzまではCH1が高くCH2が低い。 その後0.9~1.1khzの間ではCH2がCH1を上回るが、再び1.1~1.25khzまでCH1が高くなる。 このように相互が補いながら、高いレベルでの振動ピークを維持している。 また、CH1及びCH2で形成された同波形の振動ピークの大きさはCH2がCH1を大きく上回っている事が解る

他社グリップ製搭載ロッド

▲ 全体的にCH1及びCH2とではCH2のピークが出ていない事が解り、全体のレベルも低い。 特に1.4khz以上の高い周波数帯域では、全体的に振動の大きさが低くなり、CH1よりもCH2が下回っている部分が多い。 高周波数帯域では、CH1で形成されている振動のピーク波形がCH2ではほとんどなくなっている。 また、CH2の振動ピークがCH1を上回る事は無い事からCH1から伝わる振動がCH2で減衰していると言える。

■結 果

VB製ではCH2の振動がCH1よりも大きくなっている事に加えて、CH1の波形がCH2で忠実に再現されている事から、ほぼ同じ周波数成分を含んだ振動が伝わっていると言える。この結果CH1の振動がリールシート部で拘束されずに共振増幅されている事が解る。 一方他社製グリップ搭載のロッドは、CH1で見られる振動ピークがCH2ではほとんど見られない事から、振動はリールシート部で減衰されていると言える。当社グリップと他社グリップの内部支持構造の違いによる振動の周波数特性が明確に表れている結果となった。

2) 振動伝達比グラフで振動伝達比の比較・解析を行う。

振動減衰率グラフ

CH1及びCH2の周波数スペクトルの比を算出(CH÷CH2)し、グラフ化したもので、どの周波数成分がどのように減衰したり増幅しているかを示します。グラフラインが1.0を超えるとCH1よりもCH2が上回っている事を示し、逆に1.0ラインを下回っているとCH2が減衰している事を表します。

当社グリップ製搭載ロッド

▲当社ロッドは減衰率が低く全体的に1.0ラインを上回っている部分の周波数が多い事が解る。特に1.4KHZ~2.7KHZの高い周波数帯域全域において1.0ラインを超えた高いレベルが維持されている事が特徴的。 1.0ラインを超えている周波数は、88~340HZ・400~410・440~470・490~510・560~590・860~990・1430~1820・1840~2670となる。

他社グリップ製搭載ロッド

1.0ラインを上回っている部分の周波数は88~160HZ・180~210・ 240~250・ 272~360・520~580・600~630・1040~1200・1310~1360。

■結 果

実際に、他社製グリップと自社製グリップのスペクトルを計測し振動伝達比を求めると、当社製品は1.4khz~2.6khzまでの幅広い周波数帯域で振動が増幅され、共振している事が解る。これは、ジュラルミンという固有振動周波数の高い金属物質を素材としてリールシートに使用しているだけでなく、シート先端部でロッドを強固に1点支持させブランクをシート内で非接触構造とする事で質量の大きなリールを装着した場合に、ブランクから伝わる振動がリールシート部で減衰されずにCH2まで伝達する事を可能としている。一方他社製品では低い周波数帯域では一部上回っているものの、1.1khz付近より高い周波数では全て減衰している。これは樹脂製のような固有振動数(共振周波数)が低い素材である事に加えて、リールシート内部でブランクが拘束されてしまい、質量の大きなリールを装着した場合に、リール・シート・ブランクが一体となりより大きな質量となる事でCH1から伝わる振動を大きく減衰させている。  

実 験 結 果

実験1・2の結果から得られた数値を元に検証すると、当社グリップ製搭載ロッドは、幅広い周波数帯域の振動を感知する事が出来る理想的なロッドである事が実証されている。従来のロッドでは樹脂製グリップにより限られた狭い周波数帯域の振動しか感じる事が出来なかったが、VAGABOND金属グリップロッドでは幅広い周波数帯域を含む微振動を感じる事が出来、手元で共振させている。また、当社のロッドは広帯域な特性を持つ事から事実上、他社ロッドでは感じる事の出来ない周波数帯域の当たりを取る事が出来ると言える。

振動特性の対比に関する報告

ま と め

今回の実験で得た自社開発ジュラルミン製グリップ搭載ロッドの計測数値は、例えば日常において冬場活性の低い魚の僅かな当たりや、触れて突付くような微振動、さらに食い上げだけの微振動でも共振し手元に伝わっていることを実証し、これにより素材や構造の重要性が明確になった。つまり、市場で言われている高弾性ロッドブランクシャフトが実際にクリーンな振動として手元で感じ取るには、グリップの支持方法や拘束方法等も振動への影響が大きいという事です。これらの振動特性の分析を行う事で、今までプロやベテランアングラーの経験のみによって伝えられてきたロッドの調子や特徴を、より具体的な数値と合わせて表現したり、機能や性能を判断する為のスペック表示の一つとして活用出来るのではと考えます。今後も実験の必要な要素が多く存在するロッドの振動システムではありますが、より深くこの研究と実験を継続して行い、より高性能と呼べるロッドの開発に活かして行きたいと考えます。また、実験で得られるデータを広く告知する事により、消費者にとって解りやすいロッドの性能判断の参考や基準になれればと考えています。