第8章 準 備

1997年後半 アメリカから帰った僕は、日本で物創りの準備を始めていた。 今度はアメリカで集めた沢山のビンテージ品に囲まれながら、創る側に立ってバスフィッシングの歴史や道具が進化する流れを追いかけた。すると色々な事が解ってくる。あるメーカーは何年ごろに特許を取得し商品化した事により名前が売れた事や、その後、競合する別メーカーが新しい発明をし特許を武器に新製品を出した事により人気が出始め、その後勢力を伸ばしていった事。また、大手が出現する事で、特徴の無い小さなメーカーが無くなっていった事などなど。いわゆる技術のぶつかりあいによる商戦が繰り広げられていた事が良く解る。言わば革新的な技術や発明はその後、大きな流れを作り得ると言う事が見えてくる。 一方その頃、日本では本格的なビンテージタックルブームが訪れており、各社がチャンピオングリップの発売を始めたのもちょうどこの頃だった。当時日本に流通していたグリップの大半はビンテージ品で人気のあるCAMPION、フィリプソン等の完全なレプリカであり、グリップと合わせて各社がロッドも発売を初めていた。 コレクターズアイテムとして人気の高かったビンテージ品であったが、レプリカが発売されると何故か価値のあったはずの本物の人気が落ちてしまうという奇妙な現象まで起きてきていたのである。確かに本物のビンテージは高くて買えないからレプリカを買うというのは良く解るが、本物の価値を上げるならいいにしても、ブームによって登場したメーカーが作るレプリカが何十年もの歴史を重ねてきた本物の価値までも下げてしまっていいのだろうか? よくよく考えると、製作側自身が創造力を発揮しているかどうかだけの話で、本物自体の構造や機能を良く知らずに形だけをそっくりに真似る。だから一般ユーザーは下手をすると本物と間違い買ってしまう。レプリカだと解っていてもそっくりだし使用感も変わらないから納得する。 使う人はそれでいいと思うが、供給するメーカー側は本当にそれだけでいいのだろうか?? 少なくとも僕がアメリカで見た物や手にした物は全て魂の入った本物ばかりであったし、アメリカ人達に教えられた物に対する評価も全てはオリジナリティーあふれる本物志向を中心とした事ばかりであった。逆にオリジナリティーの無い物は、他の似た物と比べられてしまい、同じクオリティーなら知名度の高い、いわゆる資本力のある大メーカーの方が結局はメジャーとなってしまう事を感じていたのだ。 今からメーカーを立ち上げる僕らにとっては、画期的な構造をしたものか、他がぶっ飛ぶ程のクオリティーの商品を創る事がどうしても必要だった。 完全なオリジナル商品を創出する事をコンゼプトとして、1998年末 VAGABONDが立ち上がった。