第2章 本物のアンティークショップ 「アクエリアス」との出会い


1994年 日本では本格的なOLDタックルブームになる少し前だった
古着や骨董品の好きな僕はアンティーク釣具にも興味を持ち始めており、渡米の度にアメリカのコレクター達を尋ね歩いていた。フロリダに有名な店があるらしいと噂で聞いた僕は早速手紙を書き、訪ねる事にしたのだった。お店はフロリダ田舎町の錆れたダウンタウンにあり、丸一日かけて飛行機を乗り継ぎ、レンタカーを借りてようやくやって来た!


店の名前はアクエリアス
外見は良くある田舎町の釣具屋であった。 「ハロー!」店に入ると中からは威勢のいい65歳ぐらいのポットベリー親父が出て来て、「二、ニッポンからわざわざ?…オイオイ、本当に、おっ、俺の店に着たのか?」オヤジさんはかなり興奮していた。どうやら冗談だと思っていたらしい。それもそのはずだ、手紙ではこっちの説明も大してしないまま○月○日頃に見に行きたいんやけど大丈夫??みたいなやり取りでおやじさんからの手紙も「平日ならいつでもOKだよ!」…そんな感じのままいきなり来たのだから。僕の目当ての品はクラシックタックルだった。実は訪問前に事前にリストを送ってもらっていたのだが、そのリストのルアーにはかなりのお宝があり、幻と言われるHEDDON WOODEN FROGやBLACK SUCCER、WOOD PECKERなど目にするだけでも価値のある、マニアヨダレ物がリストに写真で載っていたのだった。 挨拶を済ませてから、お決まりのアメリカンコーヒーを出してもらい、まずは休憩。 コーヒーを飲んでいる間におやじさんは奥さんに電話している。 「オイ、今日は凄い日だ。今、日本からお客さんが来てるんだ!わしの店も捨てたもんじゃ無いだろ。売れたら今夜はワインで乾杯だ!」 「良かったわねー、あなたの趣味が認められて…」。僕はこの典型的なアメリカン夫婦の会話を羨ましく聞きながらコーヒーを飲んでいた


店を見渡すと全てがオールドタックルだった
というより何十年も釣具屋をしていた親父の店は、その在庫全てがOLDタックルになっていたのだった。中でも最も高価なルアーがいかにも大事そうに額縁に入り壁に掛かってある。その大きな額縁のど真ん中に威嚇するように飾られていたのは、リストに載っていたへドンの名作BLACK SUCCER。周りを囲むようにWOODEN FROG、DOWAGIAC MINNOW #150、#0、#00、WALTON FEATHER TAIL、ZARAGOSSA、WIGGLE KING、SALT WATER SP、SOS、FLORIDA SP、VAMP etc…かって見た事も無いルアーがぎっしりと詰まっている。 他にもシェークスピア、サウスベンド、フルーガー等で程度はEX~EX+中にはMINT(新品同様)やNIBなんてのもあり、僕はパニック状態。…僕にとっては夢のような店だ! 「…いったい何が欲しいんだい?」オヤジさんが言う。店の商品を一個づつチェックしていくと、どれも手入れが行き届いており程度はとても良い。別の棚にはダイレクトリールがいっぱいありどれも良く回るし新品箱入りのままだ。 「おっちゃん、これナンボ?これナンボ?これは?」と繰り返して聞く僕はまるで駄菓子屋にいる子供と同じ状態になってしまっていた。しかも聞く商品全てが驚きの値段だった!大きな箱を用意してもらいどんどん詰め込んで行くうちに、棚の商品が見る見る無くなっていく。このままでは、おやじさんが商売出来なくなるんじゃないかとこっちが心配になってくるほどに…。 「あんまり買うと具合悪い??」おやじさんに聞くと、「No Problem!」と一言。 …やった! しばらくは商品を選び必要な物だけの値段を聞いて分けて行ったが、2時間以上経過した所で、いちいち値段を聞くのが面倒になってきたのと、どう考えてもこのペースで行けば一日で選別出来ない程の量に気付いた僕はおやじさんに言った、 「全部でなんぼ?」オヤジさんは「ピタッ」っと動きを止めて「…ハッ??」…しばらく沈黙の後「全部か?」と聞いてきた。…おやじさんの手は震え、息は荒くなりかなり興奮していた。


4時間後 近所の常連さんにも手伝ってもらい箱詰めもようやく終了
僕は持っていったTC小切手にサインをし終えると、オヤジさんは再び奥さんに電話している。 電話を切ると今度は一緒に記念撮影をしようと言った。 オヤジさんは札束を手いっぱいに広げて記念撮影(となりの写真は、僕の親友の江森くんと店主のおやじさん)。どうやら何度説明しても奥さんには全く信用してもらえないらしく、「この写真は証拠だよ。今夜は本当にワインで乾杯だ!」オヤジさんの興奮は頂点に達していた。 そう、僕はオヤジさんの店の商品を丸ごと全て買ってしまったのだった。 フロリダ州田舎町の「アンティーク ルアーショップ・アクエリアス」は過去最高の売上を記録し、その歴史を終えた。 最後におじさんは言った。
「もうこれで悔いは無い。すばらしい最後だ!」

「See you next Life!」